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【11回】粘度が作る高級化粧品Column

【11回】粘度が作る高級化粧品Column

「触れるとクリーミィなのに、塗った途端にサラッとした感触に早変わり。」

「スポンジに取るとエマルションのようになめらかにのびて、乾燥肌にもやさしくフィット。」

これらは某化粧品の説明文です。
化粧品の通販サイトを見ると、こうしたエマルションやチクソトロピーという言葉が当たり前のように使われており、こうした商品に縁のない男性諸氏には少々驚きかと思います。

では、今回は化粧品を題材に、使う側ではなく、作る側からのレオロジーとして見ていきましょう。

感ピュータを数値化する

化粧品には、本来的機能(肌を明るくみせる、肌の保水をする・・・)、嗜好性(香りや色・・・)、使用感等の総合的なものとして商品特性が作られています。
その中で、レオロジー的な特性はどのように関わっているのでしょうか。
代表的なところで言えば、クリームの塗り心地、マニキュアや口紅の塗布性(温度特性等も含む)などを狙い通りにコントロールするために、粘度測定等を活用しているものと言えます。

そもそも、商品特性は個人の嗜好性が大きく影響する。
従って、最終的な成分構成の良し悪しの判定には、官能検査を担当するテスターの"感ピュータ"の威力が大きな役割を果たします。
これはむろん化粧品に限らず、例えばビールのノド越しなども、多くのパネラー(被験者)の感覚を統計的に処理した中から好まれる味を導き出していきますが、もちろん専門のテスターも関与しています(ちなみに、ビールのノド越しも粘度が重要な役割を果たしていることは以前このコラムでも紹介しました。ある一定速度で飲み込んだときのノドへの引っ掛かり具合、つまり粘度が、「キレ」などと表現されます)。

とはいえ、"感ピュータ"の判断をできるだけ数値化し、製品開発や製造を標準化していくことは、現代のものづくりの基本です。
その際、粘度をはじめとするレオロジー項目の測定値は使い勝手の良い指標となっています。

そもそも化粧品(芳香が機能の1つとして成立していることから、業界では香粧品と呼ぶのだそうです)には、高分子が多く利用されており、レオロジーの出番が多いのも実は自然なことと言えます。


では「へぇ〜」という例を1つ。

「落ちない口紅」というのが、数年前から使われるようになってきています。
従来、口紅というのは油に色素を混ぜてあるのが一般的です。
唇に色が乗りやすい反面、唇が触れた先にも色が移りやすい構造になっていました。
「落ちない口紅」の実現は、各メーカーさまざまな工夫を施しているようですが、その1つが、海藻から抽出した超高分子アルギン酸を成分として使うもの。
この高分子材料は水分によく反応し、表面に被膜を形成します。
口紅に使用すれば唇や吐息に含まれる水分と反応して、口紅の表面(それは唇と言っても良いのですが)をコーティングします。
この働きによって、色が落ちにくくなっているわけです。

スキンクリームの塗布感と降伏値

特にクリーム類・乳液などの塗布感では、粘度が製品コントロールに非常に役立ちます。
スキンクリームを例に見てみましょう。

油中に水滴、あるいは水中に油滴が分散している液体をエマルションといい、レオロジーが対象とする代表的な液体の1つです。
クリーム類はこのエマルションに属し、ある大きさの力を加えることで急激に粘度が低下するといった独特の性質を持っています。
具体的には、クリームを肌に乗せて塗り始めるとすーっと伸びていく。
高粘度であったものが瞬間的に低粘度へと変わることで、滑らかさという官能と、塗りやすさという機能を実現しています。
商品の説明文で使われる「チクソトロピー」は、こうした性質を伝えようとしているものでしょう。

粘度が急激に低下し始めるところを降伏値と言いますが、降伏値が小さい、つまり小さな力でするすると伸びていく方がクリームは塗りやすいものです。
ボテっとしない滑らかさは、クリームの高級感の一要素でもあるようです。
ということは、降伏値の大きさで商品にグレードを付けられる。この降伏値の操作はまさにレオロジーの世界です。
チューブをどれくらいの力で押すとクリームが出るようにするか、口紅を塗るときの滑らかさ具合なども、降伏値を変えることでコントロールできます。

製品(例えばシャンプー)自体だけでなく、粘度はその容器構造にも関わってきます。
容器内のシャンプーを吸い上げるパイプの径は、シャンプーの粘度との相関で決められます。

さて、滑らかさ以外にも、クリームの差別化を図るためのレオロジー要素は多々あります。
例えば、さらっとした塗布感にするか、しっとり感を持続させるのか。
あるいは、チクソトロピーの回復の具合(スピード)のコントロールなどです。
早く高粘度へ戻り過ぎるとレベリングしない。
逆に、いつまでも回復しないとキレのない化粧品というイメージになってしまいします。
そのため、製品の目的と用途に合わせてレオロジー的性質を操作します。
局所的に厚く塗るのであれば、レベリングさせない方が良い。
そのために、高い降伏値と素早く高粘度に戻る性質を持たせる、といった作り込みをすることになります。

さて、ある物質の粘度をコントロールするのに、増粘剤等が用いられます。
次に、そこを見ていきましょう。

増粘剤の役割と分散安定

クリームがエマルションであることは先ほど触れました。
ここで少しわき道にそれて、牛乳の例をご紹介してみます。
牛乳もエマルションの1つです。 牛乳には乳脂肪分などが溶け込んでいますが、なぜ分離しないのでしょう。
これは、一般的な牛乳がホモジナイズされたものだからです。
ホモジナイズとは、牛乳中に含まれる脂肪球を圧力をかけて砕き、均質化したものです。
脂肪球は細かく均一になり凝集せず、牛乳の中に安定的に存在することになります。
つまり、一種の分散安定技術といえますね。
ノンホモ牛乳であれば、水分と脂肪分はやがて分離し、脂肪分の層(=生クリーム)が出来ます。

ちなみに、ホモジナイズした牛乳は「口当たりがサラっとする」「吸収が良い」などと言われる反面、風味が損なわれるともされ、ノンホモ牛乳にこだわる生産者や愛飲家もいます。

さて本題に戻りましょう。化粧クリームでは、成分粒子が細かく、均一化されているものが高級と言えます。
保湿等の機能を持たせる油性分が媒質である水に均一に存在するためには、分散安定剤を用いることになります。
もし分散安定が上手くできなければ、化粧クリームは瓶の中で水分と油分に分離してしまうでしょう。
上で見たノンホモ牛乳のように。
その状態は、何かチープな感じがしますよね。

この分散安定剤とは、実は増粘剤の一側面でもあります。
添加で粘性を高める働きをするものが増粘剤ですが、粘性を高めることで成分は安定的に存在するようになります。
この機能からとらえれば、増粘剤は分散安定剤ということになります。
つまり、油性分を均一に分散安定させるだけでなく、今度は増粘剤の役割として、その増粘剤の性質からクリームの伸びをコントロールすることができるわけです。

これらのことから言えば、高級クリームと一般品の違いは、中に入っている機能性成分の違いというより、レオロジー的性質の違いであると捉えることもできます(もちろん、薬効高い成分を配合した高級クリームもありますが)。

だからといって、女性に化粧クリームをプレゼントするのであれば、やはりそれなりの価格と名の知れたブランドのものをプレゼントした方が"効果的"なのは、揺るがないかもしれません。

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