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なるほど!コラム

【1回】食感という『味』

粘度って何?

「粘度」とは何か?
これを、物質の粘りの度合いを表す単位、などと言ってしまえば簡単かもしれません。
ただ、そんなにシンプルにはいかないのが「粘度」というものなのです。
扱い方を知らない人には、まるでカメレオンのように姿が変化して、まったくもって正体をつかめない存在となってしまいます。

では、真の正体はどんなものなのでしょうか?
きちんとした定義はもう少し後の回のコラムに譲り、しばらく「粘度」の周辺話を進めていきましょう。

粘度も含め、物質の粘弾性を扱う学問をレオロジーと言いますが、なかなか手強い存在として知られています。
その反面で、これほど私たちの実生活に密着している学問も珍しいでしょう。

例えば、機械や車が好きな方ならば、「そういえばオイル状態は、機械の温度によって変わってくるな」とか、「オイルの粘り具合が大事なんだよね」とか思い当たることがあるかもしれません。
料理でもそうですね。てんぷらやフライを作る時に、油の切れがいいとか悪いとか、これも油の状態=粘度を問題にしています。

私たちの体や健康も、実は粘度に左右されています。
“エコノミークラス症候群”として知られる肺血栓塞栓症。
呼吸困難から、ひどい場合には死に至ることもある恐ろしい病気です。
これは、長時間座り続けることで血液の流れが停滞、さらに乾燥や水分の摂取不足という状態が加わることで、体を流れる血液の粘度が上がることに起因します。
粘度の高い血液は血栓を生じやすく、それが肺の動脈を閉塞させてしまうのです。
体の組成の大部分を占める水分。これはいつでも、さらさらな状態にあるわけではありません。
逆に一番簡単な予防は、こまめに水分補給をすること。
これって、レオロジーの観点から見ると、立派な粘度管理と言えます。
他にも、”おいしく炊けたご飯の秘密解明”から”垂れにくいお風呂用洗剤”の開発まで、レオロジーが利用できる場面は私たちの身近にたくさんあります。
もちろん、産業界ではレオロジーの活躍の場はぐっと広がり、原材料や製品の評価・品質管理、また新しい素材の研究開発に、その粘度及び粘弾性を定量化して利用することは必要不可欠となっています。

おいしいって何? ― 化学な味と物理な味

さて、話は一転します。
今度は「おいしいって何だろう?」という問いです。
これに、レオロジーから迫ってみましょう。

まず、味には、大きく2つの評価要素があると言われています。
1つは「化学的味」と言われるものです。「辛いのが好き」とか、「苦いのはダメ」、「この味、少し濃いね」から「この甘さが一番」まで、いわゆる味覚と呼ばれるものによって計られるのが「化学的味」です。

化学的味は、舌にある味蕾と呼ばれるセンサによって確定されます。
ただし、味蕾の数や感度には個人差がありますから、ある食品に同じ量の甘味成分が含まれていても、皆が同じように「甘い」と感じるわけではありません。
さらには、その「甘い」という味蕾への刺激(信号)を好ましく思うかは、実に主観的な問題と言えます。
つまり、この化学的味で「おいしい・まずい」を判定すると、かなりのばらつきが出ることになります。

もう一つの味は「物理的味」と呼ばれるものです。
簡単に言えば、食感――硬いとか、口当たり・のどごしが良い、などで評価するものです。

例えば、クリーミィーなジェラート・アイスクリームをスプーンで食べるのと、それをミルク状に溶かしてストローで飲むのとでは、どちらがおいしいでしょうか?
両者の「化学的味」はほぼ同じです。
しかし、圧倒的に、溶けていないジェラートを好ましく思う人が多いはずです。

このように、食感は「おいしい」を判断する重要な要素で、「化学的味」に比べれば、その好まれる傾向はまとまりやすいものです。

かたいガム(革をかんでいるような?)、弾力のないイクラ(・・・拍子抜け)、歯ごたえのないカマボコ(もはやトウフ)、挽き粉の入ったざらざらのコーヒー、などを想像してください。
とてもまずそうですね。
固形の食品では特に、食感が嗜好性を決定付けることが多いと考えられているのだそうです。

こうした食感を、食品業界では『テクスチャー』と呼んでいます。
そして、食感=テクスチャーの正体とは、食材の粘度や弾性・凝集性・粘着性、口当たり感で言うなら水分や脂肪分の含有量によって決定されるモノ、と言えます。まさにレオロジーなる事象です。

「テクスチャー」が重要

食材はそれぞれ本来の硬さ、食べる段においては食感=テクスチャーを持っています。
ただ、フルーツのように生のままでおいしいものと、ゴボウのように、熱を加えることによってその滋味を発現させるものがあります。
調理は、調味料を加えることによって科学的味を調えるということのほか、テクスチャーを変えるという意味もあるわけです。

今や調理も科学の時代ですから、「煮る・焼く・蒸す」「切る・叩く・伸ばす」といった、人間の手による基本技だけで成立しているわけではありません。
外食、中食といった生活スタイルが一般化している現代では、万人に好まれるおいしさを作り出すために、テクスチャーを改善する食品素材(ある種の食品添加物)が開発され、活用されています。

食品添加物というとちょっと怖いような感じもありますが、何と言うことはない、でんぷんなども有効なテクスチャー改良素材です(ただし取り出すのに、高度な酵素技術を使って処理したりもします)。
小麦粉にある種のでんぷんを加えることで、硬くて粘りけのあるうどんが、また違うでんぷんでは、逆に柔らかく粘りの強いうどんを作り出せます。
ここまでくると、テクスチャーも「化学的味」と同様に各人好みの世界。
客の嗜好に合わせうどんを打ち分けられれば、それは立派な職人技ですね。

テクスチャーの改良は、化学的味への作用としても応用されます。
化学的味は舌の味蕾をセンサとする刺激の関知ですから、この感知具合を操作してやることで、化学的味の感じ方を変えることが出来ます。
粘度を上げる――例えば汁にとろみをつけることで味覚成分を閉じこめ、味蕾に行き着きにくくすれば、しっかりした味付けながら、上品な料理に仕立てることができるというわけです。
あるいは、苦味・酸味を適度に抑えた薬膳料理、という展開もあるでしょう。

私たちがふだん意識していなくても、テクスチャー・コントロールは生活シーンのさまざまなところで行われているのです。

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