【2回】ゲルな商品たち
摩訶不思議な物体 - それはゲル
若かりし頃、「物質の三態」というのを習ったことと思います。
「気体」「液体」「固体」の三態は、ある条件下で他の状態へと相を変える(相移転)存在でした。
しかし、世の中には個体とも液体とも言えないような不思議な存在もあります。
代表的なものがゲルです。
これは「コロイド溶液が流動性を失った」もので、水などの溶媒が液体のまま保持されており、氷のような固体とは全く別なものと言えるわけです。
コロイド溶液が流動性を保った状態をゾルと言い、ゾル-ゲルの代表的なものとして、寒天や魚の煮こごりなどが挙げられます。
これらは熱を加えると液状(ゾル)に、冷却すると固形状(ゲル)に変わるのは、よくご存知のことと思います。
さて、このゲルというのは、日常生活の中で思いのほか活用されています。
ゲルを利用した大ヒット商品は、おそらく紙おむつでしょう。
おしっこを閉じこめて(ゲル化させて)しまいドライ感を確保できるので、布おむつに比べると遥かに快適ですね。
ほかに、面白い商品も出ています。
自転車や車イスのタイヤに樹脂を注入してゲル状に、ノーパンクに加工する装置です。
これもゲルの性質をうまく利用しており、装置は樹脂を温めて液状にしてタイヤの空気孔から注入、その後自然冷却によって適当な固さになるものです。
空気の替わりに充填されているわけですから、まさに空気が抜けようもありませんね。
ゲルはどのように日常生活中で活用されているか?
こうした、ゲルの状態を活かして商品化していくためには、緻密に計算された粘度コントロールが必要となります。
例えばチキソトロピーというゲルの性質で、それを見てみましょう。
チキソトロピー性とは、高粘度溶液(ゲル)に応力を加える(振動させるなど)とゾルに変化し、放置すると再び高粘度化(ゲル化)する現象のことです。
これだけ読むと私たちの身近にはまったく関係なさそうですが、「粘度の世界」は、忍者のように巧妙に隠れ潜んでいるのです。
代表的なものが、ボールペンの先(つまりボール)とインクの関係です。
インクはさらさらしていた方が書き味が滑らかになるのですが、粘度の低い水性インクはにじみや水ぬれに弱い。
逆に粘度が高い油性インクだと、書き味は悪く紙への吸い込みが遅いという欠点が出ます。
そこで粘度コントロールの出番。
チキソトロピー性を持った最適なインク(ゲルインク)を作り出します。
このインクはペンの中では高粘性をもって安定していますが、書く時にはボールの回転によってずりが加えられ、粘度が下がって水性インクのような書き味を作り出します。
さらに紙への浸透時に再びゲルへと変化するため、にじみの無い筆記となるのです。
「なるほど」という仕組みですが、そういうことなら、他にいくつも思い当たるでしょう。
壁を塗るペンキ。
ゆるい方が伸びは良くて塗りやすいですが、反面垂れやすくもあります。
日曜大工で使うなら、刷毛で塗っているときだけ伸びが良く、すぐに固まってくれるペンキがありがたいですよね。
女性の方なら、化粧品を思い浮かべるかもしれません。
それも正解です。
乳液や口紅なども、伸びと安定性が同時に満たされていることが重要です。
まだまだ。
食卓ではトマトケチャップも! 通常、トマトケチャップはなかなか出にくいですが、ちょっと振ってあげると粘度が下がって使いやすくなります。
粘度コントロールが持つ重要な意味
増粘調整剤は、単純な粘度調整を行う他に、これらチキソトロビー性を付与するためにも利用されます。
先程は日常生活での例を見ましたが、工業社会の中ではさらに、粘度コントロールが重要な意味を持っています。
例えば、混合溶液の管理を考えてみましょう。
仮に油脂分を含む溶液を利用する場合、この溶液にチキソトロビー性を持たせることができれば、溶液が静止状態にある貯蔵時にはゲル化することで油脂分の分離や他の構成物質の沈殿などを防げます。
一方使用時には、ずりを加えることによりゾル化させ、パイプ等による輸送を可能にできます。
このように大掛かりなシステムに活用するためでなくとも、各種ベース溶液を高粘度にする増粘剤開発は、実際にしのぎを削るような競争が日々行われています。
食品や化粧品類ではより高い質感が得られる粘度(粘性特性)を、工業製品ではより的確な性能を提供できる粘度を、それぞれを確保するために、正確な粘度計測に基づくコントロールが求められるのです。